ブッシュ交換は何のため?
ブッシュ作業のご依頼は大変多く、マルハでは定番的な人気メニューとなっています。
しかし、皆さんは何のためにブッシュ交換をご希望されていますか?
ブッシュ作業とは本来どうあるべきものでしょうか?
また、ブッシュ作業に関連する作業とはどのようなものがあるのでしょか?
少し解説的にご紹介いたします。
古く劣化したブッシュ
ブッシュの状態はリフトアップした状態からは殆ど目視確認はできません。
アームを取り外し、ブレスでブッシュを抜いた時点で、ようやく状態が可視化できるもので、交換の判断は難しいものがあります。
純正部品よく出来ています。その気であればSまだまだ乗れるかもしれません。
一方で、NAならば30年以上も経過している車体もありますので、交換しても惜しくないとも考える事も出来ます。
ただ言えることは、メーカーや私どもの様なプロショップが部品の供給や作業対応ができる内に実施されることを強く推奨します。
もはや、そんな時代でもあるのです。
やりたくても、部品がない、あるいは安心して任せられる工場がない、こんな時代に差し掛かっていると言えます。
そして、本来の目的であるブッシュ交換の意義。
そもそもロードスターは軽快なライトウェイトスポーツが根底に開発された車です。
エンジンは非力、しかし軽快な足回りが最大の武器。
であるならば、シャキッとした足回りは常に装備したいところ。
出費を抑えて、性能低下した足回りでのドライブは、車のコンセプトから外れている様に思えます。
アームの下処理
ご自身のオリジナルアームを使ってブッシュ交換をする場合、その対応方法に各工場での差が出ます。
アームの下処理は私が長い間携わって参りましたが、ここ数年は若手メカニックが担当してくれています。
実に丁寧に作業をするメカで、私の時以上に細かなに処理をしています。
それを脇から観ていて、自分のやっていた時にはそれが当たり前としていたことが、他人がやりだすと、実に重労働であることを改めて実感します。
弊社作業の場合
*外したアームを専用治具で検品する。
*アームの錆をできるだけ落とす。(ベルトサンダー、ワイヤーブラシ、ブラストなど)
*アームのブッシュハウジング内をホーニングする
*スチーム洗浄で汚れを徹底的に落とす
*2液のウレタン塗料で厚目に塗装をする
*乾燥機で塗膜を硬く仕上げる
この工程を簡略しようとすると、ブッシュを抜いて、そのまま新しいブッシュを入れる。そのまま装着、あるいは缶スプレーでサッと黒く塗って装着。
随分と工程に差が出ますが、これもブッシュ作業としてユーザーに提案されるメニューです。
弊社側からすれば、似て非なるもの。と考えています。
今回のこのページのタイトルを、何のため?と題した理由がここにあります。
丁寧に、そして物事を理解して作業をすることが大切だと考えています。
例えば、こんな錆びたアームの場合もあります。
それをここまで引き上げるにはかなり大変です。
外観上は程度がよさそうでも、ハウジングの内側に多かれ少なかれ、錆が出ているケースが殆どです。
この錆を処理せずのブッシュを圧入すると、ブッシュに偏りが生じて、ボルト通りのライン が狂ってしまいます。それではアライメントが上手く出ません。
この様にハウジング内まで丁寧にホーニング+塗装を施しことでブッシュは素直に圧入ができるようになります。結果的に精度を維持したアライメントに繋がります。
各種ブッシュの下地処理は同じ
マルハで取り扱うブッシュは数種類あります。
22個セット
Mazda full bush for NA22pcs set
maz04052809 For NA
¥68,222(¥62,020)
- ブッシュ F ロアアーム 前側
3,950x2 - ブッシュ F アッパーアーム
3,450x4 - ブッシュ R ロアアーム 外側 後
2,690x2 - ブッシュ R ロアアーム メンバー側
2,690x4 - ブッシュ R ロアアーム 外側 前
2,690x2 - ブッシュ F ロアアーム 後側
2,500x2 - ブッシュ R アッパーアーム
2,300x6
22個セット N1仕様
N1 spec bush setmix type
maz04052810 For 全車
¥133,254(¥121,140)
- ブッシュ・マツダスピード R ロアアーム メンバー側
17,770x4 - ブッシュ F アッパーアーム
3,450x4 - ブッシュ・マツダスピード F ロアアーム 前側
3,350x2 - ブッシュ R ロアアーム 外側 前
2,690x2 - ブッシュ R ロアアーム 外側 後
2,690x2 - ブッシュ F ロアアーム 後側
2,500x2 - ブッシュ R アッパーアーム
2,300x6
22個セット
Maruha hard rubber bush22pcs set
mar05052100 For 全車
¥99,000(¥90,000)
22個セット(2024年1月〜)
Bearing ball bush22pcs set
mar12103100 For NA NB
¥178,200(¥162,000)
*フル純正ブッシュ
*マツダスピードを伴うブッシュ
*フル強化ブッシュ
*フルピロブッシュ
上記の内容に、リヤナックル部のトーコンキャンセラー(ウレタン)やあるいは各種のMIXなども今後展開を考えています。
選択肢が多くて、ユーザーが悩むところでもありますが、その前に覚えておいてください。
何度も繰り返して説明をしておきますが、
*曲がった、あるいは歪んだアームをベースでは意味がない
*ハウジングの処理を確実に行わないと、ブッシュが正しく装着し難い
*精度のあるアライメント調整が必ずセットで実施される事
この3点は非常に大事なポイントとなります。
特にブッシュのゴム硬度が上がる程に、ハウジングの下地処理がより大事になります。
ピロはその究極で、圧入難度は高いものです。
マルハが普段から考えているブッシュ作業とは、“意味のある作業”を前提に検品・下地処理から始まります。地味で汚く、手間の掛かる大変な作業なのですが、それが本来あるべき作業なのです。
ボルト類も一緒に検討ください
ブッシュが劣化している様ならば、ボルトやナット類も同じく傷んでいるケースが多い。
メーカーから供給がある内に同時交換を強く推奨します。
使えるものは使って、ダメなら交換。
実際の作業現場で、こんなに多いボルトナットを選別する時間的余裕もなく、またその線引きも難しい。ならばそのまま再使用した方が返って作業は楽なのです。
こんな錆びたボルトを外すことだって相当しんどいもので、アームを外すだけで疲弊する事も珍しくはありません。
折角アームやブッシュをリフレッシュしたのに、ボルトを惜しむのは勿体ないと思います。 余程程度が良い限りを除き、ボルト類も新調されることをお勧めいたします。
悪さをするボルト
ボルトの可否観点を錆びに限定してはダメです。
特に長いボルトは歪んでいることもあります。
タイヤを縁石に当ててしまったことでも簡単に曲がってしまいます。
サーキット走行などを頻繁に行った車両などは十分あり得る状態と言えます。
この1本のボルトを下と上に定規(スコヤ)を当ててみます。
ごく僅かですが、上部に定規との隙間が見えます。この隙間であっても実際に抜く際にはかなり苦労しますし、取り付けは更に困難。
また、アライメント的に全く意味を成しません。
NAで使われているロア―アームの偏心用ボルトとワッシャープレート。
プレート側にはアルファベットのD側に穴が開いていて、ココに同じくD側のボルトが際込まれます。
これらはアライメント調整の際に必要となる偏心式ボルト+ワッシャーなのですが、肝心のD型が広がりその形が崩れています。
このガタがある様なものを使っては、精度の高いアライメント調整は難しい。
ボルト一式交換は決して錆の観点だけではなく、性能的な面でも重要なものです。
キャリパーのOH / ガンコート仕上げ
足回りの作業と言う観点で、キャリパーも一式に見直すのは実に良い機会です。 当然、その費用は増すばかりですが、整備の観点からすれば一括作業は結果的に費用を抑える事ができます。
錆との闘い。
NA・NBはまさにこんな様相です。
綺麗なアームに対して、キャリパーはこんな状態。 作業現場では躊躇(ためら)いが生じます。
本当にこのまま作業を続行して良いですか?とユーザー様に説明。
ご予算やご要望に応じて、カラーペイントも可能です。
ここでの話は、キャリパーOHするならカラフルな仕様は?などの点ではありません。
シルバ−、レッド、オレンジ、これらは全てガンコートと言う特殊な塗装によるものです。
特徴は高温で焼く事で非常に堅牢な塗膜を形成します。
2枚の鉄板はどちらもガンコート仕上げ。1枚は焼きなし、もう1枚は焼きあり。
塗装を犯すブレーキフルードに浸し、経過観察。
焼きありは、全く影響を受けません。
ガンコート仕上げは、究極のキャリパーOHと考えています。
これは他社で過去に行われて塗装済キャリパー。
ピストンシール周辺は通常の塗装では対抗性が無く、知らずに錆が進行してしまいます。
錆びたピストンは動きが鈍り、最後は固着と言う最悪な結果をもたらします。
キャリパーの最大の敵は紛れもなく錆です。
+
ウェットブラスト/ガンコートについてはコチラ→
ブーツ類、ジョイント類
ブッシュ交換ではブーツ類の破損も一括処理されるべき点です。
亀裂の入ったブーツを交換する。
しかし、はやり丁寧に処理されるべき点です。
例えば、フロントのアッパーアーム。
▲ブーツを外すとこんな汚れたグリースが現れます。
▲丁寧に除去し、新しいグリースを使ってブーツ交換。
当たり前の工程ですが、皆さんの依頼された作業は如何でしたか?
ブーツの劣化に限らず、ジョイント部が緩んでいると、ジョイントのグリグリ感にガタが生まれます。
その場合は、新しいジョイントに交換。
こんな事も常に常時在庫をしているお陰で、適切に対応ができます。
Lower ball joint
code:NA01-34-550B
¥7,711(¥7,010)
Castle nut
code:9992-31-400 For NA NB
¥187(¥170)
Split pin
code:9922-13-025
¥121(¥110)
Tie-rod endFor vehicles with BILSTEIN
code:N021-32-280A For NA・NB全車
¥6,996(¥6,360)
Tierod end
code:NA01-32-280
¥8,866(¥8,060)
Castle nutLock nut for the tie-rod end
code:9992-41-201 For NA6CE NA8C
¥198(¥180)
Split pin
code:9922-13-020 For NA6CE NA8C
¥121(¥110)
スタビライザーのエンドロッドもNA用は亀裂が良く見かけられます。
豊富な純正部品の在庫管理は、適切な整備を支えています。
一般的には中々できない事なのです。
次のリフトの予定もあるので、早く処理したい。こんな工場側の事情で劣化黙認、折角の作業を終わらせてしまっては意味がありません。
最後はアライメント
アライメントは今やどこの量販店も見受けられる当たり前に設備になっています。
そこにはメーカー標準の基準数値が予め入力されていて、それに沿う様に調整する。
まさか、こんなレベルで大事な愛車を任せてはいませんよね?
ロードスターは足が命。
車高、走る条件、タイヤ、など様々な要素を考えてセットアップをします。
純正標準数値は全く無視です。
先ずは、専用リフトで車体は平行にリフトアップされる事。
フロアごと水平に上昇することで1G状態が保たれ、且つ制度の高い水平を維持する事で正しいアライメント調整が可能になります。
マルハで使うUSAハンター社製テスター。
タイヤに設置されたレフレクターを画像処理の方法でタイヤ軸を割り出します。
各タイヤのレフレクターを前方タワーとの個別対応型。左右の通信が出来ない位、車高が低くても全く問題ありません。
テスターの精度も大事ですが、より大事なのはそれを使う人間。
モニターに表示される数値から、どの様にセッティングをするのかを “考える” 事が重要なのです。
偏心カムで自由自在にセッティングができるわけではありません。
ブッシュへの負荷、車高やタイヤから見受けられる対応条件。
経験、知識、そして考える事。
決して設備だけの話ではないのです。
最後に
だいぶ話が長くなってしまいました。
日頃、当たり前として従事する作業も、この様に言葉にすれば結構な工程や時間、設備、在庫そして経験・技術が必要になります。
とても片手間にはできない内容です。
マルハが取り組む “ブッシュ交換” とは何か?
少しでもご理解を頂き、安心してお任せ頂ければ幸いです。