ロードスターのトーコントロールキャンセラー
トーコンキャンセラーとはトーコントロール キャンセラー ブッシュの略称であるが、
いつの間にかトーコンキャンセラーがそのままの製品名になってしまっています。
このブッシュは主にFR車の後輪用ナックル部に使われています。
ロードスターの場合は以下イラスト部になります。
【マルハ トーコンキャンセラー】
先ず、マルハのトーコンキャンセラーの説明からしましょう。
Toe Control Canceler BushUrethan
code:mar04060004 For NA NB
¥7,150(¥6,500)
1.材質にウレタンを採用
マルハではジュラコンなどの硬い材質は採用しておりません。
トーコン部に意図的にある程度シナリを取り入れる事を考慮したためです。
ウレタンは純正のゴムブッシュ、強化品のゴムブッシュに比べると硬い材質ですが、
それでもある程度の復元力はあります。
そのため、長期に渡り、応力が掛かっても原形を維持する事が出来ます。
つまり、ストリート向けのチューニングアイテムとして適している材質と判断しているのです。
2. サイズの適正化
他製品を比較したところ、サイズが適正になっていないために、折角の強化品が返って弊害を起こしている状況が認められました。
ナックル部への挿入に無理があり、非常に過大な力を掛けないと圧入できない。
挿入後、ナックルとアッパーアームの動きを妨げてしまい、サスが上下しない。
これらの状況では強化品の意味が損なわれてしまいます。
設計変更を繰り返し、より良いサイズの適正化を図り、サスの上下運動への影響を抑えるように工夫されています。
また、装着は軽くプラハンなどで叩くだけで手軽に装着が出来るようにサイズ設定されています。
3. ボルトカラーの防錆処理
ウレタンブッシュ中央にはスティール製のボルトカラーが入ります。
サスペンションは雨、泥水などに常にさらされる過酷な条件下で長期間機能しなくてはなりません。
それ故、防錆の処理は徹底しなくてはなりません。
マルハのボルトカラーはブラックコーティングが施されています。
長期間の防錆効果と安定した機能を得る事が出来ます。
4.取り付けの際のお願い
装着時には以下事項をなるべく励行ください。
- 純正ブッシュをナックルから取り外した際に、錆が発生している場合はペーパーなどで十分除去してください。
- トーコンキャンセラーを装着される際に、グリースをお使いください。
ウレタンブッシュの外周、特にボルトカラーの内外には念入りに塗布する。 - 使用グリースは当HPでも紹介しているクラッチグリースが適しています。
高濃度でのモリブデン配合、ベントン配合による耐高温製(流れ出しがない)。
非常に優れたグリースです。
トーコンキャンセラー機能検証
さて、トーコンキャンセラーの意味を検証しましょう。
ロードスターは前後ともダブルウィッシュボーン採用のレーシングサスペンション。
鋭いコーナーリングが得られ、ターボ車などをコーナーで追い詰める痛快感があります。
ところが、ロードスターのダブルウィッシュボーンがBESTというわけではありません。
私が絶えず理想とするサスペンショの中に、マルチリンク(後輪)があります。
今回は日産の例を盛り込んで説明しましょう。
構造図は31系のローレルです。昭和63年。初代ロードスターとほぼ同じ時期の車です。
アームの構造は
上 :フロントアッパーアーム、 リヤアッパーアームの2本
中間:ラテラルロッド の1本
下 :A型ロアアーム の1本
計4本のアームで支持される構成になっています。
マルチリンクは制動時の後輪リフト抑制(アンチ ダイブ)。
発進時の後輪沈み込み(アンチ スカット)。
対地キャンバーの最適化。コーナー中のコンプライアンス トーインの実現。
リバウンド、バウンド時のトー変化の抑制。
実に多機能に渡るサス機能となっています。
更にこの機能にハイキャスが加わり、より安全性の高い充実した構造となっています。
複雑な構造に理解し難い部分もあるかと思いますので、今回はコンプライアンス トーインのみを例にとって考えて見ます。
【日産 マルチリンク ・後輪 コンプライアンス トーイン】
Aアームのボディ側ブッシュの剛性を揺動軸方向に軟らかく、軸と直角方向に硬く設定し、ラテラルリンクは横軸方向には移動しない構造。
従い、旋回中 外側輪に横力(遠心力の反力)が加わった場合や制動時車輪に制動力が加わった場合、
外側輪はブッシュのたわみによりトーイン方向に移動します。 (コンプライアンス トーイン)
このコンプライアンス トーインにより、タイヤのコーナリングフォースは増大し、旋回及び制動時の操縦安定性を可能としています。
* 日産の機能を参照しているので、ここでの同社の資料抜粋をどうぞ御容赦頂きたい。
ポイントは幾つかあります。 ゴムブッシュの使い分け、アーム配列構造、アームの角度、など様々であるが、要はコーナー中の遠心力が掛かる時、コーナー中のブレーキ時などの状況に応じてブッシュが変形し、自然に後輪がトーインにアライメント変化をする仕組みなのです。
このブッシュの変形を利用してトーイン変化させる機能はロードスターにも備わっていると解説書には一応記載されていますが、簡単な文章が3行程度で詳しい説明は殆どありません。
過去の雑誌、ロードスターNA、NB系解説書、 色々調べましたがやはり詳細はありません。
ダブルウィッシュボーンの構造説明のみなのです。
やはり、単純なH型ロアアームとA型のアッパーアームのロードスター後輪サス構造にマルチリンクほどの機能は期待できません。
では、トーコンキャンセラーは何の為に?
ブッシュ変化によるトーインを期待せずに、ある程度固定させてしまうためのものです。
マルチリンクにしても、ハイキャスにしてもストリートドライブを前提として誰もが安全に操縦できるように工夫された機能なのですが、よりシビアにサーキットや峠を攻めるようになるとマッチングが難しくなる場合も出てしまいます。
日産用のチューニングアイテムとしてハイキャスキャンセラーや、ハイキャスコントローラーなどが販売されていますが、まさしく上記理由により改造する訳です。
同様に、ロードスターにおけるブッシュ変化によるトーインを最初から最小限にとどめ、スポーツドライブ、ハードドライブ用にあらかじめトーインにアライメントを設定し、コントロール性にダイレクト感を出すのです。
最近は強化型のフルブッシュが販売されています。
マルハでもこれらのブッシュを使って作業いたします。
当初はマツダスピードの強化ブッシュはリヤについてはロアアームのメンバー側2箇所のみの設定になっていました。
これは、メーカーの立場から、ダイレクト感を向上させつつも、コンプライアンストーインの要素を残そうとした配慮なのだと考えます。
現在のマツダスピードの強化ブッシュはリヤに関しては、以下の通り。
リア アッパー アーム メンバー側 | ゴム硬度 65度 |
ナックル ブッシュ(トーコンブッシュ) | ゴム硬度 65度 |
リア ロアアーム (メンバー側) | ゴム硬度 55度 |
リア ロアアーム (タイヤ側) | ゴム硬度 65度 |
オートエクゼ製は全て ゴム硬度 70度にて設定
表からお分かりの様にロアアームのメンバー側を最も軟らかいブッシュにしています。
変形トーインを狙った設定と思われます。初期にこの部分のみに強化型ブッシュを設定したのは、ブッシュ変形が大き過ぎる為にスポーツ走行用にトー変化量を抑えたのです。
まさしく、これがダイレクト感狙いなのです。因みにゴム硬度42度から55度に上げたものです。
ユーザーとしては、どの様にこれらの状況を整理したら良いのか悩むところでしょう。
【マルハの提案は次の通りです。】
- フルブッシュ(強化型)によるサス渋さは出ません。
従いスポーツ走行を前提としているのであれば、強化型ブッシュをお勧めします。
単なるリフレッシュが目的でブッシュ交換するのであれば、純正ブッシュで十分です。 - ウレタン性トーコンキャンセラーは強化ブッシュとの併用でより効果的になります。
ただし、先ずトーコンキャンセラーから体験されることも決して悪い事ではありません。 - ブッシュ交換、トーコンキャンセラーなどを使用の場合に、確実なアライメントを取ってください。
無理なキャンバー設定、無理なトー調整、外部衝撃によるナックルなどの歪をアライメント調整で吸収しようとする作業。
これらのアライメント調整では折角のブッシュ交換の効果を低下させてしまいます。
どうぞ御検討下さい。