ロードスター純正コネクティング・ロッドの確認
〜 再使用しても良いのだろうか? 〜
エンジン部品等は一般的には動きのあるパーツではありませんが、当社ではいつでも手に入らないと困る物ばかり。 全国的に考えても、必ず多くのプロショップやプライベーターにお役に立てる筈と確信しておりました。
幸いな事に、かなり情報が浸透して来ているようです。バランス・ピストンやガスケットキットの注文が全国から多数寄せられます。
その中で、コンロッドも交換した方が良いのでしょうか?とその必要性について疑問を抱くお客様がいらっしゃいます。背景には当然、コストセーブがあります。
出来れば、交換したくないと考えておられるわけです。
先ず、価格から。
2022年現在、純正部品価格がかなり高騰しており、純正コンロッドも例外ではありま
せん。
この価格を以って、敢えて新品純正ロッドに拘る性能的メリットは殆ど得ることが出
来ないと考えます。
純正コンロッドがこれ程高額であれば、弊社で設定しているオリジナル軽量・H断面
ロッドを強く推奨します。
精度の高い加工に加え、強化ボルトを備えた上の軽量化を狙った製品であり、抜群な
レスポンスを期待する製品です。
Connecting rod
code:B6S7-11-210E For 全車
¥27,071(¥24,610)
【ユーザーの心理】
当社にO/Hを依頼されるユーザーの殆どが、第一に10万キロを超えていることを理由にされています。 全国的にも同様の理由でO/Hを考えているユーザーは多いはずです。
では、10万キロ?の持つ意味は何でしょう?
言い換えれば、“かなりくたびれて来たから、リフレッシュをしたい"と言うことなのです。
そこで、先ずピストンとメタル。どちらも見た目にも傷や磨耗が確認できますから、絶対交換。 次にコンロッド。 見た目上には大きな変化が見られなく、交換するには今一つ躊躇。 “今まで問題なく動いていたエンジンだったし・・・"とOKにしたくなります。
【トヨタのマニュアル】
トヨタ4AGは排気量(1.6L)・DOHCでロードスターと対抗するエンジン。
彼らのマニュアルを少し紹介しましょう。
コンロッドのメタル合わせは次のように行います。
1. クランクシャフトに打刻されている数字(ジャーナルピン外径を表す)を確認
2. コンロッド側面に打刻されている数字(大端部の内径を表す)を確認
3. この組み合わせで数種類設定のあるメタルの内、適合メタルが決定される仕組みになっています。
簡単に言えば、クランク・ジャーナルピン外径・コンロッド大端部内径を測定せずとも刻印で分かる仕組みと言えます。
それぞれの箇所を正確に管理し、最適なメタルクリアランスを確保しようとしているのです。
念を押しておきますが、打刻があるから測定不要とは考えないで下さい。
あくまでも念入りに測定をする事は必要です。
メーカーも打刻の表す数値もチャンと表示しています。
【マニュアル外から見えてくるもの】
中古のエンジンを分解するのですから、刻印をそのまま信用せずに、時間を惜しまず必ずマイクロメーターで測定を掛けるとある事が見えてきます。
お察しの通り、刻印に表す数値にはならない箇所が出てきます。
長い間に磨耗、変形している事が理由に挙げられます。
【マツダのマニュアルでは】
一方マツダのメタルはサイズが1種類しか設定がありません。
クランクもロッドも非常に精度良く仕上げてあれば必要とされるメタルは1種類でも対応できることになります。
また、少し厳しい言い方をすれば、クリアランスはある程度の許容があり、その許容を各メーカーがどこまでシビアに求めるのか、その姿勢が伺えます。
マツダのマニュアルではクランクジャーナルの許容数値は記載されていますが、ロッド側の大端部内径についての数値は記載がありません。
これは、測定しなくて良い?と言うことなのかと疑いたくなります。
【基準となる数値】
基準値がマニュアルに記載されていなくても正確に4本のロッドの内径を測定すればバラ付きは確認取れます。
4本ともビシッと揃っていればOK。バラ付きがある様なら交換。
十分判断基準としてなし得ます。
この作業は、エンジンを組む際に必ず行われるべき作業です。
トヨタのマニュアルに話を戻せば、打刻でロッド内径を表しているのですから、即ち正確に管理する必要性を示唆しています。
ロードスターのロッドも当然、内径測定をするべきです。
それでは、10万キロ走破のロッド内径を測定したら、実際にはどうでしょうか?
殆ど高い確率で内径の精度が落ちている事が伺えます。精度の落ち方が許容範囲であれば良いのですが、折角のO/Hです。 曖昧な妥協はせずにシビアに制度を求めるべきです。
【大端部内径が変化するとは?】
固い金属のロッド内径が変形するには幾つかの理由が考えられえます。
先ず、何らかの理由でピストン摺動に大きく抵抗が発生などした場合、ロッドには大きなストレスが掛かり、大端部内径が歪んでしまったり、ロッドの首が曲がります。
エンジンブローなどはこの手の状況となります。
余程の極限で回さないとこの様なトラブルは起こることはありません。
この状況では大胆部内径は変化してると予想される。
次に、ここまで酷くないにしても長期に渡り使用すると振動や内径変化がメタルとロッド内壁に微妙に隙間を発生させます。
隙間にオイルが浸入し、振動によりカーボン状に変質し異物となります。
また、振動により電解が生じ、金属表層を犯すとも考えられています。
これら異物や電解によっても内径値が崩れていくのです。
【金属疲労の面から考える】
内径値の変化だけでなく、長年使った事での金属疲労も考慮しなくてはなりません。
金属疲労が発生するにはそれなりの理由があります。
往復運動を繰り返すレシプロエンジン。
4サイクルにとってロッドに最もストレスが掛かるのは排気上死点とされています。
圧縮・爆発工程の後、勢い良く下死点を通過後そのまま勢いを残し排気工程のためにピストンは上昇。
そのままシリンダーヘッドを つき抜けようとするピストン(慣性)、それをいきなり引っ張り戻そうとするクランクシャフト。
その間に介在するロッド。
高回転時の排気上死点には数トンにも及ぶストレスがロッドに掛かるのです。
この過酷な状況こそが、エンジンパーツの中で最も過酷な条件下で機能しなくてはならない部品の代表格としてロッドが取り上げられる所以なのです。
【曲がったロッド】
エンジンは完全にロック。再使用は不可能となり最悪の事態。
ここで紹介するロッドはウォーターハンマー現象によりネックが曲がった物です。
今回テーマにしているロッドの経時変化によるものではありませんが良い機会なので紹介しましょう。
原因はインテーク側から水を吸い込み。
そのまま燃焼室に入り込んだ為、圧縮工程でピストンが水圧の為にいきなり頭を抑えられます。
行き場を失うピストン。
かまわずクランクは回転を続けます。
このヨジレをロッドがまともに受ける為についに曲がるのです。
更に曲がったロッドがつっかえ捧となり、エンジンは完全ロック。
【破損したロッド】
シリンダーブロックが突き破られているのが分かります。
このエンジンはターボ仕様の為、通常のロードスターとは異なりロッドに掛かるストレスは大きい物でした。
とは言え、純正のノーマルエンジンをそのままターボ仕様としていた為、決して無闇な仕様ではありません。
実際に長い間、オーナーはこのエンジンを楽しんでいます。
峠を走行中、ロッドが破損。そのままシリンダーブロックを突き破った例です。
ターボ仕様だから起こったトラブルとは言い切れません。 現実に他NAエンジンでも同様な事例は在ります。
【ボルトについて】
ボルトについても考えて見ます。
上記の大端部内径の変形については、ボルトの強度不足も大きな要因となっています。
ボルトは規定トルクで締め上げる時に、適切な範囲で伸びています。
伸びているということは、縮もうとする応力が働いています。
このボルト応力を超えるストレスが掛かればロッドの合口は開き、結果的に真円を保持できなくなります。
ロッドの内径が真円を維持できなければメタルクリアランスは狂い、メタルへのダメージが始まります。
ロッドボルトの応力(縮もうとする力)は徐々に落ちてきます。 ボルトの伸びです。
伸びきってしまったボルトはもはや使う事が出来ません。
ところが純正部品の設定として、ロッドのボルト単品はありません。
つまり、ボルトの管理の問題からもロッド交換の必要性が生じると言えます。
海外には強化ボルトで有名なレースパーツメーカーがあります。
この様な会社に依頼して専用の強化ボルトを設定するのも大変効果的なのです。
もう一つ、ロッドのボルト種類についても少々考えて見ます。
ロードスターのロッドボルトと新型ファミリア(180PS仕様 スポルト)の物を2つ。
ボルトは貫通式となる。
前者はマツダが今までどの車にも採用してきたオーソドックスなボルト&ナットタイプ。
後者はレース用の鍛造ロッドや最近のハイパワー車に見られるボルトタイプです。
ナットで締め上げるロッド(ロードスター用)は、肩口からボルトを打ち込みます。
打ち込まれるボルト頭の着座が安定するような平らな部分がロッド肩口に必要になり、デザイン的に無骨な物になります。
流れるような曲線を描き難い設計となるのです。
一方で後者のボルトタイプであれば、メスネジを切るだけで済みますから、肩口のRラインが美しく仕上げる事ができます。 このデザインで強度や重量が変わってきます。
ボルトは首下中間部で一度細くなります。
部分的に細くする事で、この部分にストレッチを掛けるのです。
寸胴のままではボルト先端ネジ部が一番細くなってしまい、ストレスがネジ部に集中するので、コレを避けるために工夫されているものです。
メーカーはボルトの伸びを計算している事がこのことでも良く伺えます。
最後に
以上の説明したように、長い間、過酷な条件で使い続けてきたコンロッドを折角のO/H時に再使用する事は非常に疑問が残ります。
分解時 見た目上問題が無いと言っても、あるいは今までも再使用してきたが問題は特に無かったとお考えの方が居ても、マルハはロッドの交換をお勧めします。
そのために、ロッドさえも大量在庫をし、計量測定済み(BALANCED)に努めているのです。
ユーザーの皆様ご自身が、いつもお世話になっているショップでO/Hを依頼される際に、良くご相談ください。
“マルハモータースはホームぺージであんなこと言っているが本当?”と質問してみてください。
“マルハ? 知らん!”と私たちの知名度を話しにするのではなく、“う〜ん・・ロッドねぇ〜。"と真剣に悩んでくれるショップと良いコミュニケーションを取っていただきたいのです。