テクニカルアドバイス
For Roadster

テクアド ボーリング


今年は最初からエンジンのオーバーホールの話が多くて、これまた忙しい。
こんな不景気な時代に遠方から多くのお客様に仕事依頼されることはマルハの誇りでもあり、一方で大変感謝しております。
県外からこれほど多くのお客様にご来店頂き、仕事を任せていただける事に今後も一層の努力を惜しむ物では有りません。

さて、今回のテーマはボーリング。
今年に入り、テクアドも“ユニクロ”などを挙げていた為、なんか偉そうな話になっていましたが、マルハはあくまで整備、チューニング会社。
分をわきまえているつもりですが、メーカーの事情を良く見極める事も、仕事を進めていくことでは大事なことなのです。

エンジンO/Hの依頼の中で圧倒的に多いのが基本O/H.。
どうせなら鍛造ピストンや軽量ロッド、なんてフルスペックで組み上げたい所はどのユーザーも同じ。 
しかしながら其処には“予算”が複雑に絡み合う。
最後は面研、カム辺りをどうするかで悩まれるケースが多い様です。

どんなメニューであっても、基本を大切に仕事をさせて頂きますが、以前から何度も述べている様に、問題はベースとなるエンジン。
そして、工程。
手間や予算を惜しんで、ピストン再使用、リング交換のみのメニューは当社ではチョッと考えられません。
組み上げたエンジンでこれから何万キロも走行していただきたい。
性能を発揮させたい。 
ならば、できる限りの精度を求めてO/Hに従事させていただきたいのです。

エンジンO/H時の外注仕事の代表格がボーリング・ホーニング。
これだけは高価なマシーンと熟練技術が無ければどうにもならない。
残念ながら現在のマルハにその設備はありません。 
それ故に最も信頼のおける専門会社に委託しております。
専門会社に拘る理由は簡単明白。
ボーリングは一発勝負。 こちらの要求精度で加工が出来なければ全く意味が無いのです。
パーツをどんなに拘っても、ボアの広げ方が曖昧であれば手の施し様がありません。
マルハのO/Hに時間が掛かるのはそう言った拘りを追求する為に、加工の日数が余計に必要になるからです。

それでは、ブロックとピストンを用意したら、“後はお任せ”?。と言うことでは有りません。

1. 全てのピストンを事前に正確に測定する。
2. 測定の際にそのピストンのプロフィールを見極める。
3. 要求するクリアランスを割り出す。
4. ダミーヘッドを組み付ける。 クランクメインキャップも組み付ける。

1〜3はピストンの数箇所を測定し、どの部分が最大ボアになっているか、どのようなプ
ロフィールなのかを考えてクリアランスを割り出す為の作業です。
“純正のピストンだから、メーカー指示書に基づいて何でもやれば問題は無い”と考えて
いたでは、其処から先のチューニングに入ることが出来ません。

4は非常に大切。
エンジンを作動させる条件に限りなく近づけてボーリングする為の工夫です。
実際のエンジンは、ブロックを中心にヘッドやオイルパンが装着されます。 特にヘッドは強力なテンションボルト(10本)でブロックに取り付けられます。
その際の歪みを予め作り出しておいてボーリングさせる為の技法がダミーヘッドなです。

   

ダミーヘッドの事は大体どの方もご存知でしょうが、もう少し詳しく説明しましょう。
先ず、ダミーヘッドの厚さをオリジナルと同寸に設計します。
時折、雑誌などでオリジナルより明らかに薄いダミーヘッドを装着している光景を目にします。
メーカーでは、ヘッドガスケットの面圧が均等になるようにボルト数、位置、そしてヘッドの高さを設計しています。
あまり、ダミーヘッドが薄いと折角作った仮の歪みが、テンションボルト付近に集中してしまうので、オリジナルに近い状態を再現しにくくなってしまいます。
そのため、マルハでは忠実に再現するように工夫しています。
また、ボアの淵に正確に面圧が発生するようにピストンサイズによってダミーヘッドを分けて使用します。
具体的には、純正サイズピストン用、マルハオリジナルピストン用、に分けてダミーヘッドを用意している訳です。

そして、クランクキャップを規定トルクで装着。
  
写真でお分かりのように、かなり大きな塊になってしまいます。
重いし、キャップ装着の為安定感も悪い。ダミーヘッド装着で加工対象物が奥になってしまう。
加工現場では難儀するはずですが、ここまでしないと私たちが求める精度で加工ができないのです。
加工屋さんには迷惑な話しです。
ただし、彼らも一流です。 毎回、必ず要求通りの精度で仕上げてきます。 脱帽です。

テンションボルトを規定トルクで締め上げる事がどれほど大切かは、ヘッドの歪の発生や冷間、温間時の金属膨張を考えて設計してある事を考えれば容易に伺えます。
チューナー独自の方法があってこそのチューニングなのですが、一方では基本に基づいて確実な仕事をしなくてはなりません。
場合によっては、ブッロクを暖めてからボーリングするべきだと言われる方もいます。
つまり皆さん、より実戦的にエンジン組み上げを考えている証です。

当社がダミーヘッドを用意する理由がもう一つあります。
それは、加工後の測定をする為です。
通常、一流の加工会社には専用のダミーヘッドを用意してあります。
どの車の物も用意がある訳では無いでしょうが、良く依頼のある物は必ず設定があるはずです。
ただ、それに頼っていたのでは、加工後の測定が自分達で出来ない事になります。
最初からピストンを正確に測定しておく、ダミーヘッドを装着して測定・加工箇所をなどの指示を確実に伝える、加工後も確認測定を行う。
この様な段取りでようやくボーリングができるのです。

手間暇かける理由が少しでもお分かり頂ければ嬉しく思います。

back]