テクニカルアドバイス
For Roadster

テクアド ブッシュ交換

11月のSALEでフルブッシュ交換を紹介したところ、結構な数の問い合わせがありました。
フルブッシュ交換+アライメント調整で120,000Yenと言うのも魅力だったのでしょうが、根底にブッシュのヘタリを気にしているユーザーがかなり多いことを改めて実感させられました。

さて、実際に11月の作業に取り掛かると、何とその作業の面倒なことか。
HPで簡単に今月はコレー!なんて紹介したことが後になって、後悔の連続。


結局、私だけでも合計100個以上のブッシュを交換したのでした。

工場内ではブッシュ名人と呼ばれています。 嘘。

ブッシュの交換は結構経験が必要です。
プレスの掛け方、カラーの選択、ゴム硬度の認識、色々知っていないと上手くブッシュを圧入させるどころか、アームを曲げてしまいかねません。
プレスの圧力計を確認しながら、ブッシュのしなりを上手くコントロールします。
文章にするとややこしいですが、要は経験で圧入状況を把握するのです。

単純な形をしているアームやリンクなら良いのですが、複雑な構造やプレスに掛け難い形状をしているモノは結構頭を使います。
この辺を要領良くこなすことは一人前のメカニックとして要求される点です。

当社でのブッシュ交換は特に珍しい作業ではなく、むしろ頻繁に在る作業です。
もちろんロードスターの場合に限らず、NISMOやTRDの強化ブッシュはもちろんのこと、一般純正部品としてのブッシュ交換も行います。
4WD(パジェロ、ランクル)やトラックのブッシュなどもその高荷重による消耗の為、比較的頻度が多いです。

ブッシュ自体の作り方も各メーカーによって色々と異なっていて面白いです。

  1. ロードスターのブッシュはゴムの本体にネジ受けのカラーが中心に収められています。

  2.  日産やトヨタのブッシュは外周に先ず金属製のカラーがあり、次にゴム、そして中心にネジ受けのカラーの構造です。

1はブッシュ圧入時にブッシュが変形します。
変形するブッシュの動きを良く見ながら圧力を掛けます。写真でも分かるように、
純正ブッシュと強化ブッシュは一見同じ形状のようですが、本体部に違いが見られます。

左:純正 右:強化ブッシュ


これは、ゴム硬度の違いによる圧入時のブッシュ変形の差を考慮しているものです。あまりに無理な圧入ではブッシュも傷めてしまうし、作業が困難になりすぎてしまいます。

2は外周のカラーにブッシュが収められているので、圧入時にブッシュに掛かるストレスはかなり軽減出来ます。つまり、ゴム硬度の高いブッシュであっても比較的簡単に交換ができるのです。


ロードスターのブッシュに話を戻しますが、写真の通りかなり消耗したブッシュがゴロゴロ出てきました。純正のブッシュは柔らかめにできています。
ソフトな乗り心地と耐久性に富んでいますが、流石に10万キロ前後の走行では
ヘタリも仕方在りません。
強化ブッシュで全交換なんて作業は他車ではあまりない作業です。
つまり、それだけ足回りに気を使うユーザーがロードスターでは多いのです。

TRDのブッシュは凄く固いので、作業は困難を極めます。
まさしく圧入時のブッシュの逃げが少なく、カラーを駆使して慎重に作業を進めます。
マツダスピードを始めロードスターのブッシュメーカーとTRDのブッシュメーカーの違いはかなり明白です。TRDのものはより競技向けと言えます。

強化ブッシュに交換することを懸念する人がいます。
理由はサスペンションアームの動きが渋くなることを心配しているからです。
私が思うには、少なくともロードスター用に販売されている強化型であれば、
そんな心配は先ず無用と考えています。
純正でも強化タイプでも固定ボルトがしっかり締まっていれば、アームはある程度固定されます。これは当たり前のことで、ブッシュ中心にあるボルトカラーが
ボルトで締め上げられているからです。
従いブッシュの変更によりアームの動きが渋くなる言う考えは間違いと言えます。

つまり、ブッシュのゴム硬度と関係がありません。
硬いゴムの為、逃げが少なくなり、ステアリングのクイック性が向上します。
あまりに硬いブッシュやピロを使うと当然ボディ側に歪みが発生する可能性も
否定できませんが、それもハードに使うことが前提であり、ましてや市販の
強化ブッシュはそこまでの硬度は無いと考えています。
結論として、ハードにドライブを続ければ、ブッシュの消耗は純正より早いかもしれませんが、それ以上にドライブインフォメーションは期待できると考えていますし、ましてやスポーツドライブを前提にしてのブッシュ交換であれば、強化型に変更することは当然の様に思えます。

今回、ブッシュ交換と一緒に多く依頼されたのがエンジンマウントの交換です。
ついでだから、この際一新したいとの事です。
エンジンマウントはサスペンションブッシュ以上に消耗が早く、もっと早いサイクルで交換をお勧めします。


写真のマウントは両サイド共完全に剥離しています。
全くマウントの機能を果たしていなかったことになります。
エンジンはメンバーの上に固定ではなく、単純に乗っていただけと言うことです。
非常に危険な状態でもあり、他個所への振動による悪影響が懸念されます。
実のところ,この様な状態のエンジンマウントはロードスターの場合特に珍しくありません。
年式の古いNA6CEのみならず、NA8Cの車にも同様なケースは幾つか確認しています。もっとも多いのは完全剥離手前の亀裂状態です。
いずれにせよ、交換しか改善の方法がありまぁせん。

皆様の愛車も同じような状況になっている場合も結構あるはずです。
早めの点検、修理をお勧めいたします。

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